なぜ職場はギスギスするのか|見落とされる4つのサインと、熱意が切れる場所 LIFE MANDALA

なぜ職場はギスギスするのか|真面目に働くだけだと見落とされる4つのサイン

「うちの社員はみんな真面目なのに、なぜか職場がギスギスしている・・・」

日本の職場には真面目に働く方がたくさんいます。

けれど、一人一人が真面目に働いている一方で、なぜか、その人間関係が悪いことがありませんか?

感謝研究家の田代政貴さんをお迎えし、「なぜ職場はギスギスするのか」を伺いました。全4回シリーズの第1回です。

この記事でわかること

✅ 「真面目」と「熱意」が、なぜ見分けられないのか
✅ 退職の本音が、数字に出てこない理由
✅ 管理職が現場で気づける、4つのサイン

田代さんは、精神科医の樺沢紫苑先生との共著『感謝脳』の著者。2000年頃からコミュニティづくりの専門家として活動され、多くの経営者や企業のコンサルティング・顧問を務めるなかで、長くうまくいく人は人間関係が豊かで、その鍵が感謝にあることに気づき、感謝を科学的に解き明かす研究を続けてこられました。

熱意を持って働く人は、100人の職場に8人

はじめに、ひとつの数字があります。

仕事に熱意を持って取り組む従業員の割合

8%

日本 / 世界平均は 20%

ギャラップ社「State of the Global Workplace」

100人の職場なら、心から仕事に関わっている人は8人ということになります。

田代さんによれば、この調査で日本は長く世界最低水準にあり、過去には4〜5%という年もあったとのこと。制度やワークエンゲージメント、ウェルビーイングという言葉が広がっても、この数字はほとんど動いていません。

ただ、この数字を「日本人のやる気が低い」と読んでしまうと、そこで話が終わってしまいます。

「真面目」と「熱意」は、向いている方向が違う

田代さんは、両者の違いをこう説明します。

真面目は「義務」の方を向いていて、熱意は「意味」の方を向いている。

真面目

「やらなければならないこと」として、期待された仕事をきちんとやる

熱意

「これは誰かの役に立つ」という社会的意義や使命感を持ってやる

外から見た行動は、ほとんど同じです。だからこそ見分けがつきません。

ここに、日本の職場の難しさがあります。

真面目に働く方が多い会社ほど、経営層は「うちは大丈夫」と思ってしまう。熱心に働いてくれているように見えるからです。

けれど真面目さには、意味を感じられなくなっても、しばらくは惰性で働き続けられてしまうという性質があります。

田代さんは、辞めようと思ってから実際に辞めるまでには1〜2年のタイムラグがあると話していました。つまり、退職という形で表面化したときには、心はとうに離れているということです。

探すべきなのは「やる気のない人」ではない

こう聞くと、「では、やる気のない社員を見つけよう」という発想になりがちです。

田代さんは、そこをはっきり否定します。

探すべきはそういう人じゃなくて、熱意がどうしても切れてしまう場とか職場環境だとか、そっちを見ないといけない。

人ではなく、を見る。

これは、責任の所在を移す話ではありません。個人を入れ替えても場が同じなら、同じことが繰り返される、という構造の話です。

日本の職場が抱えている、2つの構造

なぜ、熱意が切れる場が生まれてしまうのか。田代さんは2つの背景を挙げました。

① コミュニケーションのやり方だけが、昭和のまま

日本の職場は長く、終身雇用を前提にしていました。同じ職場で長く一緒に働くことが当たり前だったため、「言わなくても分かる」という関係が成り立っていた。阿吽の呼吸、暗黙の了解。それを美徳としてきました。

けれど今は、転職も増え、リモートワークも広がり、世代も価値観も多様になっています。「長く一緒に働き続ける」という前提は、すでに壊れています。

にもかかわらず、コミュニケーションのやり方だけが、昔のまま残っている。ここに大きなずれがあります。

② 改善文化の副作用

もうひとつは、日本が得意としてきた改善文化です。

できていないところを見つけて、より良くしていく。これは疑いなく日本の強みです。

ただしその視点を人に向けると、足りないところ、できていないところしか目につかない状態で社員を見ることになります。

そうなると、現場からアイデアが出てこなくなり、コミュニケーションも生まれにくくなる。田代さんはこれを「改善文化の副作用」と呼んでいました。

退職理由の本音は、46%が人間関係

もうひとつ、印象的なデータがあります。

退職・転職の理由に「人間関係」を挙げた割合

会社に伝えられた理由
男性 9.0% 女性 11.7%
厚生労働省「令和6年 雇用動向調査」/職場の人間関係が好ましくなかった

本当の理由を会社に伝えなかった人のうち
46%
エン株式会社「本当の退職理由」調査(2024年・5,168名)/人間関係が悪い

厚生労働省の令和6年雇用動向調査では、前職を辞めた理由として「職場の人間関係が好ましくなかった」を挙げた人は、男性9.0%、女性11.7%でした。

一方、エン株式会社が5,168名に行った「本当の退職理由」調査では、本当の理由を会社に伝えなかった人のうち、46%が「人間関係が悪い」を挙げています。会社に伝えられた建前の理由で最も多かったのは「別の職種にチャレンジしたい」(22%)でした。

公式に報告される理由と、本音のあいだに、これだけの開きがある。

つまり、いちばん大きな理由は、数字に出てこない場所にあります。

見落としやすい、4つのサイン

では、数字に出てこないものを、どう見つけるのか。

田代さんは、管理職が現場で気づける4つのサインを挙げました。

1雑談が減っている

業務連絡だけが行き交うようになる。「仕事は仕事」と割り切る人が増え、仕事以外の会話が消えていく。会議が始まる前後の数分で、社内の空気が急に変わる。そんな状態は危ういサインです。

2質問が来なくなる

これまで質問してきた人が、してこなくなる。理解が進んだからではありません。聞くのをやめた、諦めたというケースがあります。

3「ありがとう」より「すみません」が増える

「ありがとう」という声ではなく、「すみません、すみません」ばかりが行き交う職場。すみませんが、ありがとうを超えてしまったときは、注意が必要だと田代さんは言います。

4善意の行動が、話題に上がらなくなる

「あの人、いいことをしているよね」という会話が出てこなくなる。誰かが助けてくれたはずなのに、誰もそれを口にしない。ギスギスした職場で、よく見られる現象です。

これらはどれも、人事データにも近況報告にも出てきません。

けれど、現場にいる部長や管理職は気づいています。気づいていながら、報告する言葉も経路もない。言ったところでどうなるのか、自分が責められるだけではないか——そんな曖昧さの中に置かれている職場が多い、というのが田代さんの見立てです。

うまくいく組織には、2本の柱がある

コミュニティづくりの専門家として人が自然と集まる場をつくってきた田代さんは、会社も大きく見ればひとつのコミュニティだと言います。そして、うまくいくコミュニティには2本の柱があると。

共有

会社の理念や目指すビジョンが、社員全員に共有されているか

主体性

義務感で動くのではなく、自分ごととして意欲的にアイデアを出しながら動けるか

田代さんは、シンガポールでヴァージン・グループのリチャード・ブランソン氏に会ったときのことを話してくれました。当時3万5,000人ほどの社員がいた同社について、ブランソン氏はこう言ったそうです。

うちの社員は全員、うちの夢を語れるよ。

自分の夢ではなく、会社としての夢を全員が語れる

真面目な人と熱意のある人の差は、主体性にあります。理念の共有は経営者主導で進められます。けれど個人の主体性をどう引き出すかは、やり方が分からないという管理職・経営層が多いのではないでしょうか。

「ありがとう」は、もともと奇跡を指す言葉だった

田代さんは、日本人がコミュニケーションを苦手としているとは考えていません。

日本語には「ありがとう」という言葉があるからです。

語源は「有り難し」。滅多にない、人間の力ではあり得ないようなことが起きている、という意味です。当たり前ではないという感覚に対して向けられる言葉が、もともと私たちの言語にありました。

その言葉が、職場ではあまり出てこない。

田代さんの結論は、シンプルでした。

すべての人間関係は、
親切で始まって感謝で深まる。

だからこそ、いかに親切にできる環境か、いかに感謝できる環境か。それを企業の文化として育てられているかどうかが、大きな分かれ目になります。

そして感謝は、可視化されると伝わっていきます。誰かの良い行いを見た人が「自分にもできることはないか」と考える。その連鎖が生まれます。

ただし、個人の努力だけでは限界があります

ここは、私(北原万紀)自身が対談を通してあらためて感じたことです。

LIFE MANDALAでは、セルフマスタリー——自分自身の成長や変容——をテーマに扱っています。

けれど、ギスギスした職場環境の中で、自分だけが頑張ればどうにかなるかというと、正直なところ限界があります。

個人が自分の内側から変化を起こしていくアプローチと、それが文化として醸成されていく仕組み。この両方がそろっているほうが、圧倒的に成果は出やすくなります。

もちろん、他人はなかなか変えられませんから、まず自分から始めることに意味はあります。それはどんな場面でも共通です。

そのうえで、会社としての主体性がそちらを向いているかどうかが、大きな相乗効果を生むのだと思います。

対談を視聴する

第1回の全編は、YouTubeでご覧いただけます。

次回は、感謝が一時的な感情ではなく、脳の機能に関わっていること、そして技術として身につけられるものであることを伺います。

よくある質問

Q. 真面目に働いている社員が多ければ、問題ないのでは?

真面目さは、意味を感じられなくなってからも惰性で続けられるため、退職という形で表面化したときには、心はすでに離れていることがあります。

Q. 熱意のない社員を見極めるにはどうすればいいですか?

田代さんは、人を探すのではなく場を見ることを勧めています。熱意が切れてしまう環境がそのままであれば、人を入れ替えても同じことが起きるためです。

Q. 数字に出ない不調を、どう把握すればいいですか?

記事内の4つのサイン(雑談の減少/質問が来なくなる/「すみません」が「ありがとう」を上回る/善意が話題に上がらない)が手がかりになります。いずれも人事データには表れませんが、現場の管理職は気づいていることが多いものです。

Q. 感謝を推奨すれば、職場の問題は解決しますか?

関係の質で育てられることと、制度や環境として整えるべきことは別のものです。個人の取り組みと、組織としての仕組みの両方がそろうことで、成果は出やすくなります。

出典

ギャラップ社「State of the Global Workplace:Japan Country-Level Data」(日本の従業員エンゲージメント)

エン株式会社「本当の退職理由」調査(2024年・回答5,168名)

厚生労働省「令和6年 雇用動向調査結果の概況」(PDF)

コメントを残す

コメントは公開前に承認される必要があることにご注意ください。