コラムニスト
佐藤恵里| 価値観から生き方を整える総合診療医
内科医/バリューファクター・ファシリテーター/ディマティーニ・メソッド・ファシリテーター
「認知行動療法」と聞くと、多くの方が「心の病気を治すための心理療法」とイメージされるかもしれません。
確かに、うつ病や不安障害、パニック症などに対して高い効果が科学的に立証されている治療法です。
ですが、総合診療科医である私が認知行動療法を学んだ理由は、それだけではありません。
現代を生きるビジネスパーソンは、心の不調が明確に表れる前でも、日々、知らず知らずのうちにストレス、怒り、不安、疲労を蓄積しています。
こうした状態を放置すると、慢性疲労、睡眠障害、血圧の乱高下、免疫低下など、身体的な不調として現れ、やがて人生全体のパフォーマンスを下げることになります。
認知行動療法(CBT)は、疾患を抱える人のためだけのものではなく、健康な人が「よりよく生きる」ための、心と身体を同時に整えるセルフケア技術でもあるのです。
CBTは科学的セルフケアであり、心と身体のメンテナンス
CBTの特徴は、認知(思考)、感情、行動、身体反応の関係を「見える化」し、悪循環を断ち切ること。
これは、精神疾患の治療だけでなく、ビジネスパーソンの日常的な「脳と身体のメンテナンス」「パフォーマンスリセット」に非常に役立ちます。

近年の研究では、CBTの技法(呼吸法、行動活性化、思考モニタリング)が、自律神経バランスを整え、心拍数、血圧、睡眠の質を改善し、免疫力まで高めることがわかっています。
つまり、CBTは「心を整えることが、身体も整えること」になる、科学的なセルフケア法としても利用できるのです。
総合診療科医がすすめる「セルフケア処方例」

1. 【3分呼吸リセット】
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方法:1日3分、深い呼吸(4秒吸って6秒吐く)に集中する時間をとる。
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効果:
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副交感神経を活性化し、心拍・血圧を安定させる。
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集中力を回復する、脳疲労をリセットする。
2. 【今日の思考をメモして客観視】
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方法:夜、5分間だけ今日浮かんだネガティブな思考をメモする。そして「本当にそうなのか?」「そのプラスの面、役立つ面は?」と問いかけてみる。
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効果:
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自己批判や不安思考の暴走を止め、睡眠の質を改善させたり、ストレスホルモンを低減させたりする。
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自動思考による認知の歪みを修正し、身体的・心理的負荷を軽減する。
3. 【15分アクティベーションタイム】
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方法:1日15分、散歩などの軽い運動や、好きなことをする。
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効果:
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行動活性化によって気分やエネルギーを回復させる。
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自律神経機能を調整する。
4. 【小さな喜び・達成を記録】
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方法:寝る前に、今日の「小さな達成」「小さな喜び」を1つだけ書く。
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効果:
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脳のポジティブバイアスを強化し、自己効力感をアップさせ、ストレス反応を低減させる。
5. 【1分間「自律神経ストレッチ」】
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方法:デスクで首・肩のストレッチを1分行う。
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効果:
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自律神経機能を調整し、筋緊張を解き、集中力を持続させる。
ここまで読んで、「それ、聞いたことある」「知識としては知ってる」と思われた方もいるかもしれません。
でも実際には、こうしたセルフケアを日常に取り入れ、継続できていた人は私のまわりにもほとんどいませんでした。
私もかつて、毎日入院患者の管理を行いながら、週2日の外来診療に加え、内科救急の当番や当直もこなす多忙な日々を送っていました。
時間にも、気持ちにも余裕がなく、「何かを始める気力すら残っていない」というのが正直なところでした。
それでも、自分の体と心が限界に近づいていることを感じ始めたとき、
「一度にたくさんは無理でも、最小限でできることを、できるタイミングで」
という視点で、セルフケアを見直してみることにしたのです。
行動を変えられなかったのは、“私が悪かったから”ではなかった
今ならはっきり言えます。
行動を変えられなかったのは、「私が意志が弱かったから」ではなく、脳のしくみとして当然のことだったのです。

緊張が強いとき、脳は「安全」を最優先し、変化を“危険”と見なして回避しようとします。
これにより、思考や行動が固定化され、同じことを繰り返す“自動運転状態”に陥ってしまうのです。
だからこそ必要なのは、いきなり大きく変わることではなく、「小さな行動から安心を積み上げていく」こと。
それが、脳の「変化=危険」という前提を少しずつ書き換えていく方法です。
これはまさに、CBT(認知行動療法)でも実践されている科学的な手法です。
● 一呼吸リセット
吸うより“ゆっくり吐く”を意識。ほんの数秒でも余白が生まれました。それだけでも副交感神経が働き、心拍・筋緊張がゆるんでいきます。
● 客観視一言メモ
寝る前に「今日はこんな気持ちだったんだ」と一言だけ書いて自分に気づく。気づくだけで自動思考の暴走がおさまり、交感神経が沈静化していきます。
● ついでにアクティベーションタイム
トイレついでにストレッチをしたり、通勤時に空や木々を見たりする。気持ちがリセットされ、副交感神経のスイッチが入りやすくなります。
● 小さな喜びメモ
To Doの完了をしっかり確認し、上司、仲間からのポジティブな一言を意識して心に留める。特別な時間を取らなくても、それだけで小さな充実感、達成感を感じることができます。
● その場でリセットタイム
業務中に食いしばっている顎をゆるめる。上がった肩を下げる。前のめりの首をまっすぐに戻す。ストレッチの時間を取れなくても、緊張状態に気づき、呼吸と姿勢を自然に整えるきっかけとなります。

こうした小さな実践を続けるうちに、自分の状態を俯瞰できるようになってきました。
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常に緊張状態になっている自分に気づき、マッサージなどのリラックス、リフレッシュする予定を“後まわし”にせず意識的に“先に入れる”ようになった
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苦しいとき、上司や仲間に素直に相談し、「助けて」が言えるようになった
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気持ちにも身体にも余白が生まれ、仕事や人間関係が軽やかに整いはじめた
そして今では、医師とコーチという二つの軸を持ちつつ、趣味や学びも楽しめる余裕を持って日々を過ごしています。
このように、【変われるかどうかは才能ではなく、「整える習慣があるかどうか」】にかかっています。
その場での一呼吸やついでの行動からでも、脳と心のリセットは始められるのです。
まとめ:セルフケアの積み重ねが、未来を変える力になる
大切なのは、特別なことをするのではなく、「できることを、できるときに」実行すること。
今日から、できることから。
たった3分の呼吸からでも、あなたの人生を整える旅は始められます。
この積み重ねが、ウェルビーイングを高め、仕事のパフォーマンスを維持し、そして何より「自分の人生を主体的に生きる力」を支えてくれるのです。この力をLIFE MANDALAでは「セルフマスタリー」と呼んでいます。
セルフマスタリーという言葉は、ビジネスパーソンには少し抽象的かもしれません。
ですが、実際には「心と身体を同時に整えるセルフケア習慣」を日常に組み込むことこそが、真のセルフマスタリーの第一歩です。
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コラムニスト
佐藤恵里| 価値観から生き方を整える総合診療医
内科医/バリューファクター・ファシリテーター/ディマティーニ・メソッド・ファシリテーター
内科医として、症状だけでなく心や生活背景まで含めて多角的に診る「総合診療」の経験を活かし、「なぜこんなに頑張っているのに、満たされないのか」と悩む方の本質に寄り添うセッションを提供。
自身も「好きで選んだ道なのに燃え尽きた」経験から人間行動学に出会い、ディマティーニ・メソッド/バリューファクター両ファシリテーター資格を取得。
価値観や使命を明確にする論理的思考と、共感力を併せ持ち、表面的な悩みだけでなく人生全体に向き合うセッションが定評。現在は「本当の自分の価値観」に気づき、自分らしく生きたいと願う方を対象に、医療・心理・行動科学を融合したサポートを行っている。