ずっとやりたかったことなのに、「どうやればいいのかわからない」「今の生活を大きく変えるのは怖い」と、心の奥にしまったままになっていることはありませんか。
英語科教員として17年間働いてきたKeikoさんにも、25年間、心のどこかに残り続けていた思いがありました。それは、海外で働くこと。
大学時代に英国へ留学し、一度は憧れていた海外生活を経験しました。しかし、帰国後は教員として目の前の仕事に向き合う日々。「海外で働くなら、移住して現地で就職するしかない」。そんな限られたイメージのまま、思いにふたをしていたといいます。
そのKeikoさんが2026年の夏、日本の高校生を支援する英国の研修プログラムに、スタッフとして16日間参加しました。完成したキャリアプランがあったわけでも、生活のすべてを変えたわけでもありません。まずは、今の自分にできる大きさで試してみたのです。

今回は、その体験から見えてきたKeikoさんの価値観と、セルフマスタリーにおける「テイスティング」の意味をたどります。
25年間、消えなかった「海外で働く」という思い
憧れはあっても、ルートが見えなかった
Keikoさんは中学生の頃から英語や海外の文化が好きで、「いつか海外で暮らし、英語を使って働きたい」と考えていました。大学3年生で英国留学を実現したものの、その先の働き方までは思い描けていなかったといいます。
教員になってからは忙しい毎日が続き、身近に海外就職の経験者もいませんでした。海外で働くには、海外の大学を卒業し、現地企業に採用されるほどの大きな決断が必要なのではないか。選択肢を一つしか知らなければ、夢は「自分とは遠いもの」に見えてしまいます。
転機は、夢を完成形で考えなくなったこと
今回Keikoさんが選んだのは、移住でも転職でもありませんでした。英国で30年以上続く高校生向けの英語・文化理解プログラムに、日本側と英国側をつなぐスタッフとして参加すること。期間は16日間です。
これまでの教員経験を生かしながら、普段とは異なる生徒や先生を支え、現地スタッフとも協働する。長年思い描いてきた「海外で働く」を、今の生活から切り離さずに体験できる形でした。

テイスティングとは
未来に望む働き方や環境を、今の自分が取り返しのつく安全なサイズで先に体験し、自分の価値観や身体感覚との一致を確かめること。結果を急いで決めるのではなく、喜び、違和感、怖さ、無反応も含めて、自分を知るためのデータとして受け取ります。
夢が叶うときは、ふわふわしていない
英国行きが決まったとき、Keikoさんが感じたのは、憧れが実現する高揚感だけではありませんでした。高校生や先生方を支え、研修を滞りなく進める責任。仕事として現地に立つからこその緊張と重みが、喜びと同時にあったといいます。
自分の思いが叶うときって、
ふわふわじゃないんだな。
── Keikoさん
私たちは、夢が叶うことを「100%うれしい状態」と想像しがちです。しかし、実際の選択には、自由と責任、喜びと不安、得るものと手放すものが同時に存在します。
心が揺れたからといって、間違った道とは限りません。テイスティングで大切なのは、ワクワクだけを正解にしないことです。現実に触れたときの重みも含めて、「私はこれを引き受けたいのか」を確かめる。その感覚こそ、頭の中の憧れを、自分の人生の選択へ変えていきます。
場所を変えたとき、価値観が輪郭を持った

17年の教員経験は、別の場所でも生かせた
英国では、自分の学校の生徒ではない高校2年生たちと生活し、研修を支えました。現地スタッフと連携しながら、若い世代が異文化に触れる時間を支える。その経験を通してKeikoさんは、これまで積み重ねてきた教員経験が、学校の教室を越えて生かせることを実感します。
同時に、改めて見えたものがありました。自分はやはり、教育に時間とエネルギーを注ぐ人なのだということ。そして、英語を教えることだけでなく、若い人が自分のキャリアや生き方を考え、自己理解を深める体験をつくりたいという思いです。
現地に立ったから、次のアイデアが生まれた
英国の文化や伝統に触れるプログラムを見ながら、Keikoさんの中には「現地の同世代と交流する機会もあったらいい」「今度はプログラムを企画する側にも回ってみたい」というアイデアが自然に浮かびました。

机上で将来を考えていたときには見えなかった選択肢です。体験には、情報だけでは得られない手触りがあります。その場の空気、人の表情、身体が軽くなる瞬間や、逆に重くなる瞬間。場所を移したことで、普段の生活では当たり前すぎて見えなかった価値観が、輪郭を持って現れたのです。
大きな機会の前には、小さな実験があった
英国での仕事は、ある日突然、何の前触れもなく舞い込んできたわけではありません。
Keikoさんは、海外や英語への思いが自分の中で再び浮かび始めた頃、気になっていた教育関係者の公開収録に参加するため、関西から東京へ足を運びました。その方が運営する英語スクールにも入り、3か月間学びます。そこで新しい仲間や人との接点が生まれ、そのつながりを通して、英国研修の仕事へ続く話が届きました。
1気になる人に会いに行く
2短期間学んでみる
3人との接点が増える
4予想外の機会につながる
テイスティングは、連鎖する。
── インタビュアー/サポートコーチ Emiさんが見つけた言葉

最初の行動をした時点で、Keikoさんに英国研修までの道筋が見えていたわけではありません。「この人に会ってみたい」「この教育を体験してみたい」。その時点で自分の中に浮かんでいた小さな関心を無視せず、動いてみた。その一歩が新しい接点を生み、次のテイスティングにつながりました。
小さく試すことは、最短距離で正解へ行く方法ではありません。けれど、動かなければ出会えなかった人、得られなかった情報、思いつかなかった選択肢を増やします。まだ見えていない次の道を、現実の中に立ち上げる方法なのです。
「何でも試す」ではなく、価値観に沿って選ぶ
テイスティングは、目の前に来たものを何でも引き受けることではありません。時間もエネルギーも有限です。特に経験を重ねるほど、「できるかどうか」だけではなく、「自分が本当に大切にしたいものにつながっているか」を見極める必要があります。
Keikoさんの場合、繰り返し現れていたのは、英語、海外、教育、若い世代の自己理解、そして体験を通した学びでした。価値観を意識していたからこそ、東京へ行くことも、英語スクールで学ぶことも、単発の行動で終わらず、一つの方向へ重なっていきました。
完成したキャリアプランが先にあったのではありません。自分の価値観を手がかりに、小さく試し、その反応を観察する。その循環の中で、「海外で働く=移住して現地就職」という一つだけのイメージは、海外研修への同行、国際教育プログラムの企画、海外と日本をつなぐ教育など、複数の選択肢へ広がっていきました。
その「手がかり」になる価値観そのものについては、こちらで解説しています。価値観とは何か
完成図がなくても、次の一歩は試せる
25年越しの夢が、一度の体験ですべて完成したわけではありません。けれど、「遠い夢」だったものは、手触りのある選択肢へ変わりました。
セルフマスタリーとは、迷いをなくしてから動くことではなく、自分の価値観を手がかりに、今できる大きさで試し、体験から自分を知っていく実践でもあります。
Keikoさんの16日間が教えてくれるのは、大きな決断の前にもできることがある、ということです。会ってみる。短期間学んでみる。その場所へ足を運んでみる。小さな一歩は、未来を確定するためではなく、まだ知らない自分と選択肢に出会うためにあります。
あなたが今、「取り返しのつく安全なサイズ」で試せることは何でしょうか。
Keikoさんご本人の言葉でも、聞いていただけます。
インタビュアー
林 絵美(はやし えみ)|LIFE MANDALA マンダラ・サポートコーチ
メキシコ在住。スペイン語通訳者、メキシコ州政府最高裁判所認定の公認翻訳士。国を飛び越えた働き方から、子育てによるブランクを経てセルフマスタリーに出会う。現在はサポートコーチとして、メンバーの言葉に表れる価値観や行き詰まりのポイントを見極め、適切な問いをかけることで、ご自身で道筋を見出すお手伝いをしています。
監修
北原 万紀(きたはら まき)|LIFE MANDALA代表
教育コンサルタント。「人生の曼荼羅®」「マンダラコーチング®」の開発者。教育・コーチングの現場に10年以上携わり、言葉にしにくい価値観や使命を構造化して伝えることを得意とする。誰もが「自分の人生を自分で設計できる状態」をつくることを目指しています。
※本記事はYouTubeライブの対談内容をもとに、読みやすいコラムとして再構成しています。発言は趣旨を損なわない範囲で整理しています。体験の受け取り方や変化の現れ方には個人差があります。


